この話は真夏の真夜中のブエノスアイレスの出来事。
パイカ、グレラ、ペルカンタ(全部キャバレーなどで働く女性)にまつわるほんの他愛の無い経験から、、、
彼方の日、恋愛小説の主人公の様な無産階級の女達が居た。夜は、彼女達に侮辱的魅力のある名前をつけた。パイか、ロカ、ミロンガ、ペルカンタ、或いはグレラと…
彼女等によくあうのは、明け方、チュウロとココアの朝食をとつて居る時だつた。コリエンテス通りのコンフェテリア「べスビオ」で。その時間に、彼女らの働く時間が終わるからだつた。チャンテクレル、マラブー、或いはディビダボで...
南のバラカス地区のマダム・ボバリーのいかれた衝動で、彼女らはタンゴに人生を賭けた。ある女はバンドネオン奏きに恋をして、その賭けを勝ち取る。他の女等はにとつては敗北も沢山あつた。例えば、その同じキャバレーでご婦人達のクローク係りに成り下がり...確か、彼女らはみんな一緒に居なくなる。昔、目に刺青をしていて、今は消滅した少数民族のように。。。
このタンゴは、そんなグレラ達の最後のひとりを語る者。ブエノスアイレスの夜が明けたばかりの中心街で、幽霊の様に決定的に非現実的な彼女の足取りを発見した。そこでこうして私は物語る...
【ブエノスアイレスの夜は長い。私はある夜、いや真夜中3時頃、タニアが経営していたタンゲリーア「カンバラチェ」を出て直ぐそばのコルドバ大通りのバス停留所で深夜バスの来るのを待っていた。そこにはすでに一人の女性がいた。ここの国の女性にしては小柄で薄化粧で極普通の洋装をした彼女の横顔をちらりと見るとかなりの美貌の持ち主であった。
ただこの時間に女性一人でバス停にいるのはどこかのバーかキャバレー務めと思われるペルカンタ風の女性だろう。中々来ない深夜バス、そこへ一台のルノーが急ブレーキの音をけたたましく、彼女のすぐ前に停車した。酔いどれの男がガラス窓を下げる。と男はかの美女に車に乗れと小声で言い出したが彼女は相手にしない。男はだんだん声を荒らわにしつこく彼女に迫る。そこでこの私のした事に、ついいたたまれずに下手なスペイン語で“俺と居るんだ”といえばと伝えると彼女理解した様子。
そこへやっと深夜バスが止まる。男はあきらめてバスの横を闇の中を走り出した。バスの前ドアーから彼女が先に、後を追うように俺も乗る。確か一番前の右側に何気なく座る。バスはいつの間にかリバダビア大通を東方面のエル・オンセ駅に近ずいていた。
間もなくどこかのバス停に止まると、例の女性が前の乗降口に向ってきた。ふつうバスを降りるのに後ろのステップに向かうはずだが、どうしてだろうと一瞬彼女を見上げると、Gracias(ありがとう)小声で言うのに気が付いた。
え、と戸惑う俺に笑顔を見せると闇の中に消えていった。この話はただそれだけ、、、のことです。】
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